Disclaimer : 我係香港市民

「今日もお疲れ様。じゃ、お先に。」
「あ、HKLFさん、もし空いてたら夜ご一緒にどうですか?」

頻度と程度にもよってくるのだろうけれど、出張中のこういうお誘いは
よほどの事情がない限り、なるべくありがたくお受けすることにしている。

仕事中はピリリと緊張した空気の流れる東京支社にあって
ざっくばらんに話せる時間というものは大変に貴重であるし
何より私のようなものと一緒にご飯を食べていただけるだけでもありがたいことである。

しかし、こうしたお誘いの数々。
「美味しい」「楽しい」「嬉しい」といった食事の基本要素については
文句のつけようのないものばかりなのだれど、その細部をよく見てみると
香港から出張者としてやってきている私が「おやおや」と
驚いてしまうようなことも少なくないのである。

もちろん、その屈託のない笑顔と溢れんばかりのホスピタリティの
東京スタッフを目の前にしてなかなか口に出して言えるお話ではないから
ここにメモ書き程度に残しておきたい。

そろそろ香港が恋しくなってきた頃ですよね

これは私にとっては注意せねばならない言葉である。
なぜなら、これは「もちろん、中華が食べたいですよね。」と同義であるから。

私は生まれも育ちも日本であるから、出張中くらい普段なかなかありつけない
和食を中心に食事を組み立てていきたいというのが正直なところだ。が、それはいい。
百歩譲って中華が食べたいことにしても、連れて行かれたレストランで
香港を懐かしんでしまうような思いをすることがほぼ絶対にないというのが問題なのである。

連れて行く方からしたら、中国人はみんな中華料理を食べているから、
中華料理屋に連れて行けばいいだろう。そういう安易なマインド。
・・・まぁ、日本語自体は間違ってはない。
が、少なくとも私にとっては全然正しくないのである。

香港が恋しくなってきたころ・・・のフリならば、正解は広東料理なのである。
いや、もっと言うと港式料理であろう。
麻婆豆腐。小籠包。さらにはセブンイレブンの肉まんも。
気持ちはわかるが、私の香港愛とはちょっと違った世界の食べ物たちである。

蒸したてアツアツの飲茶の點心たち。
店の入口に豪快に吊るされた肉をふんだんに使った焼味飯。
厚切りレモンをガシガシしてから飲むのが常識という嫌がらせのように濃いアイスティー。
まったくパンチの聞いていないフニャフニャのパスタ。
家庭で作られるいまいち味のぱっとしないスープ。

いわゆる中華のエリートたちとはちょっと違うし、ルックスもいまいちいけてない。
古くより脈々と伝わってきた世界に名だたる中華料理が英国の風にしばし当って
まさにひとり歩きしてしまった感のある代物たちであるが、
悲しいかな、それが私の「故郷の味」になってしまっているのである。

今時そんな店があるなら連れていってもらいたい

「香港はあれですよね。B級グルメっていうんですか?飯がめちゃくちゃ安いんですよね。」

これもいまだによくやりとりされるFAQにぶっこんでおきたいくらいの質問である。
実際、香港をよく知る人であれば、いったいぜんたい何時代の話をしているんだろうか。
といった感想を持つのではなかろうか。

個人的な感想を言うならば、東京のランチ事情なんて見ていると香港よりよっぽど安上がり、
といった印象なのであるが、何度それをほのめかしてみても
彼らの認識が変わるような気配はないから、出張のたびに同じ問答が繰り返される。

ましてや、私がご飯を奢りましょうなんて時には
「普段、安いご飯を食べてる人がこの東京で私たちに飯をおごってくれるなんて。」
という、嬉しさと哀れみと不安が入り混じったような表情を見せるから
私もいよいよ複雑な心持ちになってきてしまう。

この香港がまだ「安くて美味いB級グルメ」などという化石のようなもので
溢れてかえっていると言うのならば、むしろ私のためにツアーを組んで欲しいくらいのものである。
東京と同じ、もしくはそれ以上を出して、昔より随分と劣化した食べ物にありついている、
それが香港リーマンの悲しい実情であろう。
そして、安くて美味い。それが東京ランチである。本当に羨ましいばかり。

おい、待て。そいつは香港人じゃない。

今時、どこでもそうなのかもしれないけれど、うちの会社は特に外国人観光客が
多いところにあるから、付近の食べ物屋にも外国人が多い。
割合的に言えば中国人の労働者が群を抜いている。

当たり前のことだが、私は毎日のように中国人たちと接しているから、
東京における彼らの勤務態度だったり、いまいち聞き取れない日本語も気にならないのだが、
(むしろよくこんなに真面目に働いてるな、と感心する)
そういう店で食事をしていて一番タチが悪いのは
そこで働く中国人労働者よりもうちの同僚たちの方である。

あいつらと来たら、自分たちが何を食べるか決めるやいなや、
私にそれを全て伝えて、中国語でオーダーしろというのである。
そして、中国人ウエイトレスがやって来た時の期待に満ち溢れたヤツラの眼差し。

しかし、そんな期待とは裏腹に私は先程まとまった注文を日本語で淡々と伝えていく。
あまりに予想外の行動に失望と軽い混乱が起こるテーブルの向こう側。

仕方ないのである。
だって、やってきたウエイトレスは、私と同じ程の背丈がある上に
メガネもかけていないし、鼻が高くて肌は透き通るほど白い。
明らかに中国東北地方からやってきた女性で、
香港ではなかなかお目にかかることができるようなタイプではない。

要するに彼女は普通話を話すことがすぐに分かったし、私はそれができないのである。
どのくらい出来ないかというと、
「あ、自分、大学のときの第二外国語が中国語でしたけど・・・」
って言う人の方がよっぽど喋れるだろうっていうくらいのレベルである。

香港に長く住んでるんだから、中国語もペラペラ。
気持ちも分からんでもないが、香港の公用語は広東語と英語。
(近年の実務を見ると、普通話が喋れないことはかなりマイナスだけどね・・・)
そして、私は香港愛という隠れ蓑を使いつつ、
普通話習得をずっとスキップしてきた落第生なのだ。

他にも例えば爆買いする中国人観光客に関する中国から見た考察を求められたり。
(そもそも、香港も被害者だし、香港人は同人誌と果物くらいしか爆買いしないだろ)

わけがあんまり分かっていない日本人にとっては、香港から来たと言っても
上海から来たと言ってもあんまり大差ないし、どうでもいいことなのである。
私がいくら声を大にして、香港から来たといってもそれはあまり意味を持たないことなのだ。

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