普通話コンプレックスと勘違い

いつもついつい忘れてしまうので、自分のために書いておきたいことがある。

まず、中国に住んでおきながらこんなことを言うのも何だけれど、私は中国人が好きではない。

一言で中国人と言ったってその人口は13億を越えるそうだし、私も一度にそんなに
多くの人を嫌いになることはできないだろうから、もうちょっと精確に言い直すならば
いわゆる大陸部から香港にやってくる中国人のことを好ましく思っていないということになる。

別に彼らの中の特定の誰かに嫌なことをされたとか、変なトラウマがあるわけでもない。
むしろ、身近なところでは優秀で気の優しい中国人も現在進行形で複数見てきている。
しかしながら、おおよそ私とは一定のコミュニケーションを取るに至らないであろう、
通りすがりの大多数の中国人旅行者たちのことは漠然と好きになれないのである。

ひと昔前だったら、香港にやってくる中国人買い物客といったら・・・と
一から説明しなければいけなかったかもしれないけれど、今なら日本でも日常的に
それを見ることはできるようになったから、話は早いというもの。
大衆としての彼らの素行を観察する限り、笑顔を振りまいて友好的に近づいていくよりも
一定の距離と警戒心を保ちつつ接していた方が後々受ける心理的ショックが少ない。
そういう言い方だったら、大方の共感を得られそうである。

香港 ー ややこしいことに、この街では地元民と中国人旅行客とが激しく錯綜する。
そんな中にあって、私はどのようにして、この異なる二種類の中国人を判別しているのだろうか。
当然、普段は無意識にやってることであるが、しばし考えてみる。

やはり一番簡単、かつ安全な方法は外観から得られる情報による判断かもしれない。
個性的なファッションに身を包んだ大陸からの買い物客。
それとは対照的に年々確実にオシャレになっていく香港人。
それに、同じ中国人といっても、よく見ると顔立ちの構成要素がちょっとずつ違うことにも気付く。
こちらに住めば住むほどその判断精度は上がるから、意外にバカにできたものではない。

とはいえ、それも100%精確にはならないだろうし、ぼーっとしている私の背後から
忍び寄ってくる人たちだっているから、予備的な判断材料も必要とされる。
そこで登場するのが私の場合、言語なのだと思う。
この広東語の都で堂々と普通話を話す輩。・・・ブラックに違いないでしょって。

中国に住んでいるくせに、普通話は10を数えるのも覚束ないという情けない私にとって
広東語のハッキリとした滑舌とは一線を画する普通話の発音はまさに異質な響き。
周囲からちょっとでもそれが聞こえてこようものなら、それは大陸人の到来を告げるものであり、
自然と身体はそちらと違う方向に向いてしまうし、警戒心を剥き出しにすることもしばしば。

前置きが長くなってしまったが、私はここでいつも大事なことを忘れているらしい。
他の国の人だって普通話を話すことがあるっていう事実を。

例えば台湾人。
彼らは普通話を喋ることによって、海外でどれだけの不利益を被っていることだろうか。
まず、政治的にも、そしてきっと個人的にも大陸人と間違われる事自体、大変不名誉なはずである。

だというのに、少なくとも私にとっては彼らと大陸からの客たちとの判別可能性はゼロである。
台湾人が話す普通話は、よりキュートな発音なんだよ!って声高に叫ばれたって、
悲しいことに幼稚園クラスの普通話すら喋ることのできない私の前では残酷なくらい無力である。

本当に失礼なことだと思うー。

ちなみに、同じようなことが日本でも日常的に発生しているのは皆さんもご存知の通り。
そこら辺を歩いている日本人にとっては、北京人、上海人、香港人、台湾人。
いくらその差異を事細かく説明しようとも、「どれも同じ中国人」。それ以上でもそれ以下でもない。

これはきっと香港人、台湾人たちのプライドを激しく傷つけていることなのだと思う。
「日本人は香港人と中国人を区別しているの?そもそも、香港が地図上のどこにあるか知ってる?」
度々聞かれるこの質問に、私はどう逆立ちしたってポジティブな答えをしてあげることができないから
そのたびに悲しみと苛立ちをうっすら顔に浮かべる彼らを目の前にしてきているし、
今現在も日本で生活する非大陸系中国人・台湾人たちが憂き思いをしていることは想像に難くない。

実はこれを書いていても、近いうちに日本人が香港人を大陸人とは別の個性を持った人たちだと
正しく認識することなんてない気がするのが正直なところだけど、例えばそれに興味が持ってくれて
ググってみた時にはそれなりの情報として私の文章が出てくるようにはしておきたいなとは思う。

あ、でも、まず手始めは私自身が香港を訪れる台湾人たちをきちんと識別してあげること、か。

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