香港にフェイ・ウォンなんていなかったのだ
初めて香港に来る前に私は多少のリサーチをしたと思うが、
その中でこれまた初めて王家衛に出会って、すぐに心酔した。
妄想はどんどん膨らみ、香港とはどんなに素敵な街なことかと思ったし、
「恋する惑星」はお気に入りの映画のひとつで、
どこかの小さなお店に、お茶目なフェイ・ウォンがいるってことは
私の中では大きな既成事実になっていた。
王家衛にハマるのは罪でないが
そんな状態で香港に降り立ってしまった私はすぐに卒倒しそうになった。
フェイ・ウォンみたいな店員なんてどこを探してもいなかったのだ。
では、その後どんな店員に出会ってきたのか?
いくつかのパターンに分けて、紹介していきたいと思う。
王家衛にハマること自体は罪ではないし、誰でも通る道なので、
これでも読んで少し頭を冷やしてから香港に来るのも悪く無いだろう。
元親日派、今は赤い保母さん
このタイプが生息するのは尖沙咀のショッピングモール、ブティックだ。
今でこそ、Cartierやヴァンクリに代表される広東道の高級店達は
本土からの旅行客によって埋め尽くされてしまっているが、
一昔前は日本人が入るや否や、すぐにセールスがやってきて、
喜んで接客してくれていたものだ。いわゆる上客だったのである。
ところが今はどうだろう。
本土客と日本人なら、セールスは間違いなく、本土客に寄っていく。
もはや日本人マネーの名声はここ香港で失墜している。
そりゃ、そうだ。
私が財布一つであれこれ迷っているうちに、あちらは山積み、まとめ買いだ。
だが、高級ブティックだっていうのに、本土客の子供達は走り回ってるし、
カルティエだって本国の社長がみたら、きっと気絶するだろう。
セールスだって、私につくより、本土客の子供あやしてたりする。
もう、来てやるもんか。
食わせてやってんだから感謝しろ
ホテルやSOHOでの食事も飽きたし、ちょっと下町のB級グルメを、
と思う頃に出会ってしまうのがこのパターンなのだが、
店員にとにかく怒られる。
店に入った時から、「忙しいのに来るなよ」みたいな視線を感じるし、
水を頼むにしても、料理を注文するにしても、いちいち怒鳴られるのである。
これはお客様は神様という前提で来てしまった日本人にとっては、
不愉快極まりない体験になることは間違いないのだが、
そんなことはお構いなし。嫌なら来るな、である。
ちなみに、食べ終わる前に、勝手に皿を持っていこうとしてくるので、
好きなモノは後に残しとこうなんて自分ルールは自殺行為だ。
もはや、食べさせていただいている、売っていただいている、の世界である。
自動販売機
実は私が一番精神的に来るのはこのタイプだ。
この人達は、茶餐廳の入り口でお金を受け取ったり、
街市の隅っこの方で趣味かと思うような雑貨屋を営んでいたりする。
私が近づいたって、「おや、猫でも入ったかな」みたいな顔をしているし、
お金を受け取る時だって、一言もしゃべらない。視線すら合わせてくれない。
物を売り、お金を受け取るという、役割だけに徹した自動販売機なのだ。
こっちとしては、全くコミュニケーションをとらせてもらえず、
人間扱いされているかどうかも怪しいので、
一応人間として認めてもらって、怒鳴られてる方がまだマシなんである。
ちなみに、もしかして本当に喋れない人なのかもしれない、
と思ってしばらく観察してみてたら、隣のお店の人とは爆笑しながら
大声で話してたから、ナイーブな私はそれでまた傷ついた。
通いつめればまた別の面も
ひとまず、私が日頃苦手としているタイプを3つ書いてみたが、
他については、また後日追記することにしたい。
ただ、ひとつここで言っておきたいのは、どんな店員でも、
通いつめれば別の顔を見せてくれるということである。
香港人というのは、ひとたび「こいつは友達(身内)だ」と思った瞬間、
ものすごい人懐こさと優しさを表に出してくる、可愛い人種だったりする。
最初はおっかないおばちゃんでも、「今日も星州炒米でしょ?」
とかふとした拍子に笑顔で聞いてきたりするものなのだ。
私もお店にお邪魔するたびに家族が帰ってきたような
歓迎をしてくれる「元怖いおばさん達」が数人いる。
フェイ・ウォンには間違っても似ていないけれど。
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