鬼太郎 meets 香港人
「HKLFさん、ご出身は?」
という質問が少々苦手である。
「す、砂があるところですよね。い、行ってみたいなぁ。」
「スタバ・・・、セブンイレブン・・・」
「あぁ、知ってますとも。あの全国から神様が集まるところ・・・」
大体、そういう鳥取に関するおよそ全ての知識を総動員したであろう、
苦しいコメントというか片言の日本語のようなものから始まる
まったく話の広がりが見えない不毛の会話を
約一分間程続けねばならないことが確定しているからである。
そもそも、テクニカルに言えば、私の出生地は横浜。
物心つく前、というか生まれてわずか3ヶ月ほどで他に移り、
それから大人になるまでに数え切れないほどに引越を繰り返している。
いわゆる転勤族の家庭に育ち、故に実は鳥取に住んだことはない。
であるから、会話を一生懸命広げられても逆に私は困ってしまうのだ。
そういう意味では、私の鳥取という場所に対する知識は、
他県出身者に毛が生えたようなものであると言っていい。
香港での忙しい生活から離れて、一週間ほど廃人のように過ごすには
最高の場所だと思っているが、周りに友達もひとりもいなければ、
実家と最寄りのスーパー(車で20分)を往復することしかないから、
知らないことが多くて当たり前なのである。
そんな場所にヤツらがやってくる。
「あのさ、実家への直通便が出来て、なんと往復15,000円だったよ。
東京ー米子を往復したって、40,000円くらいかかるのにさ。面白いよね。」
東京や関空への格安チケットならまだしも、
香港ー米子便なんていう誰得なローカル便をいくら安く売ってたって。
どっさり届いたメールたちを一括既読処理する朝の時間、
誰の反応も期待しないうちに放たれた私の独り言。
・・・そんな何の目的も持たない呟きすらヤツラは見逃さなかった。
仕事を振っても、ちょっと顔を引き攣らせるだけで微動だにしない
連中だというのに、銭に関することにはとことん敏感でアクティブ。
日本人ですらなかなか足を踏み入れない田舎都市へのチケット情報は
彼らのLINEを通してしっかり拡散され、翌日には
「私のお父さんとお母さん、昨日チケット買いましたよ。」
なんて言うではないか。
しかも、聞いてみれば、スケジュールもばっちり私とカブっている。
「困ったときは安心ですね。HKLFさんがいますから。(にっこり)」
事件である。
大体、鳥取という場所がどれだけ田舎なのか知っているのだろうか。
百歩譲って、米子空港に来るまでは良いだろう。
香港国際空港500番台ゲートから発車するバスに詰め込まれて
飛行機に乗り込んでしまえば難なく到着できる。
しかし、その後はどうだ。
そもそも、空港から市内へどうやって出てくるのだろうか。
米子なんてきっと英語への免疫ゼロなおじいちゃん、おばあちゃんがほとんどのはずであり、
何より心配なのは彼らの旅行期間である4日間を満喫できるほど
鳥取という場所にネタが埋まっているかどうかである。
よくよく考えれば、鳥取に限らず、香港人というやつはどこへでもやってくる。
「やれやれ、随分と田舎に来てしまったものだ。携帯の電波もほとんど入らないじゃないか。」
そんな場所に迷い込んでしまったって、背後から不意に広東語が聞かれることだってある。
彼らにとって、日本は手軽に来られる定番の旅行スポットなわけで
故に数を重ねるごとに東京や大阪、京都だけでは物足りなくなってくるようなのだ。
やがて中〜上級者になると、日本人でも近寄らないような地方都市について
夜な夜なニッチな研究を始めるようになってくる。
そういえば、私がはじめて鎌倉や江ノ島に訪れたのも、香港人に連れられて、であった。
日光もそうだ。彼らはある意味で日本のことを私たちよりもよく知っている。
だから、今回の鳥取についてもあんまり心配することもないのだろう。
すでに私が聞いたこともないような場所についての問い合わせも何度もあったし、
「へぇ、そんな場所があるの?」という貴重なアドバイスを私も送っているから、
向こうでも事前情報はしっかりと揃ってきているのではなかろうか。
日本のことは香港人に聞け。
これ、私の中では常識なのである。
いくら私が勉強したって、彼らにはかなわない。だって、好奇心の大きさが違うから。
それはまるで私たちが香港人も知らないようなレストランをどんどん開拓し、
足を踏み入れたことのない路地裏で自分だけの楽しみを見つけているのと同じように。
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