やって来ない譚仔

新羅寶韓國餐廳(美麗華商場)
満江紅
譚仔米線

毎週通う店たちである。
一旦好きな食べものが出来ると、やや単調なまでにお気に入りのレストランへと通いつめるが、
やがて飽きがやって来ると、二度と自発的にはその店へ訪れない。
それが私の基本的な食とのつきあい方らしく、たまたま上記3店が今のローテーションというわけである。
平たく言えば、辛いものがマイブームというヤツなのだ。

そういうわけで、今日は譚仔の日であった。連れは直属の香港人チームメンバー。
毎日、目の前の席に座る子だから、私がローカルの人たちに比べてやや細かい性格であることも、
オッサンのくせにちょっと冷たくするとすぐに可哀想な目をしてしまうことも、
最近私の広東語のレベルが下がりすぎて、彼女以外に正しく聞き取れる人がいないことも。
全部知っている、私が怒らせてはいけない香港人のうち、3本の指に入る人物である。

ちなみに、彼女の口癖が
「日本人って面倒くさっ。なんでそんなことにイライラするの?」
「何で私ったら、日本語勉強したのかしら。韓国語の方が良かったって後悔してる。」

大抵の場合において、クライアントに対して悪態をついているという体をとってはいるが
ニュアンスとシチュエーションを鑑みるに、彼女のフラストレーションの一部が
私を指差しているのは火を見るより明らかであり、なかなかに複雑なところではある。

話を戻す。
そういうやや典型的な顔を持つ日本人と、かなりガチな香港人メンタルを持つ香港人。
そんな二人が譚仔で米線、口水鶏、そして檸檬茶を待っていたわけである。

やがて、10分も過ぎたところで、彼女の様子に異変が起きた。
いつも一時間に一度の舌打ちが、やがて5分に一回。そして、1分に一回に。
私が何を話しても、眉間にシワを寄せて周りをキョロキョロしているばかり。

要は注文したものが自分のテーブルに到着しないことに苛立っているのである。
我々日本人に言わせれば、10分待つことなんてままザラであるし、
そんなことでイライラするようでは品格を疑われるというもの。
オトナの余裕。穏やかな顔で時間を過ごしたいところではないだろうか。

しかしながら、この街の人は「飯がやって来ない」ことについて、やたら敏感である。
通り掛かる店員にことごとくかけられる「今、作ってる」という
まったく根拠も責任も無い言葉たちを両手にいっぱい持ちきれなくなった彼女から
やがて絞り出るかのごとく放たれた言葉は

「HKLFさん、あの人の胸についている従業員バッチの写真とっといて!」

突然の宇宙からのメッセージに唖然とする私であったが、

「こんな下っ端では話にならないから、本部に従業員番号とともにクレームつけるの。」
(どうやら、従業員のうち、特に一人の対応が気に入らなかった模様)

という言葉ととも現実に引き戻され(出来れば放心していたかった・・・)、
誰に頼まれるでもないのに譚仔の店員ひとりのためにそんな労力を使える
彼女のバイタリティーに圧倒されるとともに、

「日本人って面倒くさっ。なんでそんなことにイライラするの?」
「日本人って面倒くさっ。なんでそんなことにイライラするの?」
「日本人って面倒くさっ。なんでそんなことにイライラするの?」

おいおい、どの口が・・・なんて思ったりもしたわけである。

おそらく、彼女のような類の香港人たちはあるポリシーを共有している。

「香港人は怒らないと、本気で反省しないし、求める対応を得られない。
よって、例え小さなことであっても、憤怒せねばならない。」

なかなかに過激な思想であるが、この街におけるやや一般的な理念でもある。

・・・恐ろしい街で暮らしているものだ。
帰りのバスに飛び乗り、一息つきながら思いに耽っていると、

乗客「おい、司機!なんでこのバスはこんな暑いんだ!」
司機「クーラーは目一杯つけてるんだけど、どうも壊れてるみたいなんだ。」
乗客「はぁ?なんで乗る時にそれを言わないんだよ。知ってたら乗らなかったのに!!」
司機「そんなの俺のせいじゃねぇのに、しらねえよ!」

なんて始まるじゃないか。
そして、終いには乗客たちは車両前方のバスのナンバーを(また!)写真に収め、
その場でバスの運行会社に電話をするものまでいる始末である。
(ちなみに、この街の人は冷房がないことや、空気が滞留する空間に置かれることにも敏感)

「日本人って面倒くさっ。なんでそんなことにイライラするの?」

ハハッ・・・。
私の額にはいろんな種類の汗が流れていた。

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