[番外編]東チベット一人旅 Vol.1 – 1日目(12月27日)

午前5時20分、成都の宿を発つ。
成都から色達へのバスのチケットは前日に宿で入手した。
この宿は東チベット旅行者御用達のようで、情報の少ない地域だけに
宿オリジナルの東チベットの地図は有名らしく、それを入手できたことが何よりの収穫だった。

気温は3度くらいだろうか?
底冷えする程の寒さではないが、内陸地独特の乾いた潔い寒さが肌に染みる。
騒々しく車が行き交っていた都市の大動脈である環状一号線(環一路)も
流石にこの時間とあっては車が絶え絶えとなり、タクシーを拾うことすら捗らない。

ようやくタクシーを掴まえ、茶店子バスターミナルへ。
40分はかかると情報があったが、道が空いており、20分もしないうちに目的地に到着した。
茶店子バスターミナルは地方行きのバスを扱うバスターミナルの一つ。
まだ開館前であるため、電気が灯っていない。
これから始まる長距離移動に備えて、ターミナル入口付近にあった屋台で小籠包を食べる。
依然として朝を迎える気配のない寒空に小籠包から発せられる白い蒸気が揺らめいている。

チベット
東チベットは如何なる処だろう。
そう思いを巡らせているうちに体の芯まで寒くなってきた。
成都のこの程度の寒さで弱音を吐いていては先が思いやられると思いながらも、
手持ちのバックに取り付けておいた防寒具を身につける。

ターミナルの開館を待つこと15分。
門が開け放たれると堰を切ったように一斉に人がターミナル内になだれ込む。
事前にチケットが入手できていたから発券カウンターを素通りし、バスの乗り場へ急ぐ。
時を経ずしてバスはやってきた。

乗り場で待っていたのは20人くらいだろうか。各々荷物をバスの腹の中に預け、座席へと向かう。
チケットに席番の記載があったが、乗客は前方座席から順序良く座っていく。
なんとマナーの行き届いたことか。
そんなルールに従って適当な座席に確保する。すぐ後ろの座席には年若い青年2人が座った。

間もなく後ろから声が掛かる。
中国語であったため、全く意を解せなかったが、
自分が日本人だと告げるとすぐさま声は英語に切り替わった。
彼らは香港の大学に通う学生であり、クリスマス休暇を利用してラルンガルゴンパへ行くとのこと。
恐らくこのバスの乗客の大半が同じ目的地を目指しているのだろう。

一方で前方座席が騒がしい。
どうやら席の争奪戦が勃発したようだ。
起こるべくして起こった気もするが、巻き込まれては災難だと素知らぬ顔でしばし過ごす。
しかし、争奪戦の敗者となった中年婦人の近づいてくる足音はすぐ横で止まり、
不運にも声をかけられてしまった。
当方1人旅である上に、2人掛けの席に1人座していたために少し分が悪い。
そして、不幸にも婦人と目があってしまう。

しばし中国語で何やらまくし立てられる。
即座に後ろに座っていた青年が「彼は日本人だ!」といった調子で仲裁に入った。
そこでまさかの展開が訪れた。

なんと中年婦人が日本語を話し始めたのだ。
しかも日本語になった途端に語気が和らぎ、
「よかったら席を替わってもらえませんか?」

「あ、どうぞ。」
呆気にとられてしまい席を譲ってしまった。

替わりに得た席が一番前。勢いまかせに替わってしまったが悪くない席だ。
そう思っていると中年婦人がやってきて
「一緒に旅行するんだから困ったことがあったら遠慮なく言ってね」。
えらく親切な印象に替わったこの婦人はこの後にも助けられることになる。

今回の成都から色達へのバスには日本人がいない。
マナーのよい中国人旅行者が半分と物静かなチベタンが半分。
全く滞りなくバスは進む。

成都の都心部を離れると山間の谷間をひたすらと行く。途中何度か検問を通過した。
尋問を受けるかとビビっていた検問もバスに入ってきたのは一度だけで難なくパス出来た。

早朝発とあって居眠りをしていたが、ふと目を覚ました時には、辺りの風景が一変。
コンクリートの朴訥とした家が色彩豊かなチベタン特有の家々となっていた。

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。