新年の立見席

私にしては割と珍しい新年の迎え方であるような気がする。
TVの前こそ花火観覧の特等席という信念を固く貫き通したこの香港生活。
香港で見た初めての花火だった。

そして、何より私がこういう人が集まる場所にやって来るっていう事自体が
珍しいのである。頼りない記憶ではあるがそれを辿っていったって
いつぞやの旧正月に維園の花市へ一度、そして昨年の仲秋に大坑。
そのくらいしかメジャーイベントへの参加がないような気がする。
こんな生活を10年近く続けている恐ろしい男が私。
そして、そんな私が書いてるブログがこの「香港ライフファイル」である。

ともあれ、昨日はたまたま「一緒にカウントダウン行きますか?」などと
ご親切に誘ってくれた人がいたから「はい、それでは。」と
後ろを着いていった具合であった。

そもそも、同じ花火を見ると言っても「ちゃんと見る」人と
私たちのように当日になって「そうだ、花火行こう」なんて思いついちゃう人とでは
イベントへの向き合い方がまったく違う。

前者は計画的にベストポジションと言える場所をきちんと確保して望んだり、
なんなら観覧船までチャーターして水上から花火を眺めるなんていう粋を味わう人までいる。
それに対して後者は時間も差し迫ったころに、やる気無さそうにやってきては
外野席というか立ち見席とでも言った方が相応しいような廃れた場所で
下品な歓声を上げる野次馬連中であり、私たちはそういうグループの中でも
とくに典型的な至極イノセントでパッとしない市民とも言える存在であった。

新年まであと30分。
そんな差し迫った時間の中、まだ紅磡を彷徨っていた。
香港在住の日本人にとっては馴染み深いこの街も、残念ながら我々新界人にとっては完全アウェー。
周りの知らない香港人たちをストーカーするかのごとく後をつけて
なんとか紅磡フェリーステーションにたどり着く。

そこで見たのはやはり人、人、人。
まったくこの街の人間っていうのは集まりごとが大好きである。
大体、一ヶ月後に控える旧正月の方がこの人たちにとっては大事なんじゃないだろうか。
それとも、騒げるものは騒いでおけ的な血が沸いちゃってるのだろうか。
クリスマスに新年、旧正月。とにかくカウントダウンしたくて堪らないのだろう。

そんなことを考えているうちに、なし崩し的に新年はやってくる。
それに向かって、しっかりボルテージを上げ、みんながピークに達したところで
一斉に声を合わせてカウントダウン!

私のイメージトレーニングではそういう設定でイベントは起こるはずだったのだが
実のところはテンションも人それぞれ、カウントダウンも割とバラバラ。
この街らしい自由なスタイル(年初だしポジティブに形容しよう)で
その記念すべき瞬間を迎えることになってしまったが
これもまた立見席ならではのテンションの低さが影響したのかもしれない。

ハッピーニューイヤー!新年快楽!明けましておめでとう!
そんな新年の挨拶をする暇もなく豪快な花火が始まる。
(そもそも、ここに集まってる連中は騒ぐことが目的であって
新年が来たことを喜ぶヤツなんてどれだけいるのか分からない。)

遠目に見える花火は日本で見るそれとは趣がまったくといってよいほど違った。
侘び寂びとは対極に位置する価値観の中に上がるそれを見るたびに立見席の観客たちは
「ワァ〜〜。ホウレンアァ〜〜。」
そう叫ぶことが香港の基本法の中で決められているんじゃないかっていうほど
ワンパターンな歓声をあげている。
尚、彼らのほとんどが見てるのは実物の花火でなく、自分のスマホの中に映るそれだ。
(なら、やっぱテレビでいいじゃん?)

しかし、私にとってもっと「ワァ〜〜〜!」なことは
この10分と続かない花火にあって、5分を過ぎたころにすでに
「さぁ、さっさと帰ろう!みんな、どいて、どいて〜。」
なんて帰り始めた人がいること。

今回の花火参加のために随分と長い時間待っていたというのに
イベント開始からほぼ5分でさっさとその席を放棄して家路につくのである。
確かに帰りが混むことは容易に想像される。・・・が、なんという潔さ。
というか、よくこれだけのために労力と時間を割いたものだと感心する。

それは香港での映画館で、上映が終わりに近づきエンドロールが流れる中
香港人たちがドタドタと出口に向かってラッシュする姿を彷彿とさせた。
(今回の件にしてみれば、実際には上映中に退場してるようなもんだが)

香港人たちは異常なまでに忙しい。
何故忙しいのかは本人たちにも分かっていないような気がするが
人が集まるところがあればそれが当然であるかのように参加。
それがクライマックスを迎える頃には余韻を楽しむこともなく次のイベントへ。

2016年。
そんな街の住民のペースにもうちょっと着いていけるように。
街のイベントにも今まで以上に参加する元気を。

そんな願いを胸に秘めつつ、新年の立見席を後にする私だった。

ということで、香港ライフファイルを今年もよろしく。
更新が多くないにも関わらず、2015年もいっぱい読んでもらって多謝!

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