香港2階建てバスファンの方々には悪いけれど
いくらシャワーを浴びたといっても、脳みその一部はまだ夢のなかにいるような気がする。
会社になんて行きたくないし、できるものならもう一度ベッドに戻って微睡んでしまいたい。
そんな誘惑を振りきって、私はふてくされた顔でいつもの通勤バスの後部座席に腰掛けた。
家にいる間はSick leaveを取ろうかとどうかという不毛な迷いも多少はあったものだが、
こうして一旦公共の交通機関に身を置いてしまえば、オフィスに向かうより他はない。
先週から読みかけていた小説を取り出し、しばしの間の現実逃避にいそしんだ。
・・・しばらくすると自分のすぐ目の前を横切るものがあることに気付く。
しかも何度も、何度もうるさく。
それは私の右手の方角から顔面すれすれまで飛んできては、また同じ方に戻っていくようで、
さすがにこんな調子ではまったく読書も出来たものではないから、何気なく右側座席に目をやった。
小太りの香港男子がひとり。この街のどこにでも棲息する、平凡さ以外特段褒めるところも
みつからない、イケてない香港男子代表みたいなヤツが座っていたのではあるが、
彼がいままさに行っている営みはあまり平凡であるようには見えなかった。
なんと、ヤツはバスの中で裁縫をしていたのである。
まぁ、裁縫なんて健気なことをする好青年だわ、と一瞬気を許してしまったのも束の間、
私のすぐ目の前を往復していたのはヤツの猪手のようなブサイクな手と
やたらとキラリと光る一本の針だったことが発覚。
しかも、ヤツがこしらえているのはお世辞にもかっこいいと言い難い、コスプレ衣装である。
マジで何でわざわざ私の隣に座ったのだろうか。しかも何ではかったようにサウスポー?
そんでお前、どうせ週末になれば香港大学の校舎あたりまでわざわざ出かけて行って
その人に迷惑をかけながら作った衣装みたいなのを三流の模に着せてニヤニヤ撮影すんだろ?
平気を装いながら、しかし一方で香港中のオタクを敵にまわしてしまうような呪いの言葉を
心のなかで延々と繰り返しながら、私は職場へと向かった。
まったく、香港のバスなんてこんなもんである。ろくなことが起きたためしがない。
折角の機会だから、以下この街のバスで日常茶飯事的に見られる光景をメモっとく。
いつも自分の心だけにしまっていたけれど、今日という今日はそういうわけにもいかないのだ。
オバサン、オジサンたちの騒音がハンパない
バスはある意味において、密室と同等の空間であるから、誰かが大声で喋れば
その内容は車内のほとんどの人に筒抜け状態。プライバシーも何もあったもんじゃない。
にも関わらず、この街の人間たちにそういう危機感はどうもないようである。
車内中に音量調節機能がぶっ壊れたテレビやラジオが散乱しているような状態。
特に小巴に乗ってる時に私が必死で「降りますッ!」って叫んでんのに
ヤツラのせいでそれがかき消されてしまって、落車のチャンスを失った時なんかは
殺意すら感じてしまう。(「このお兄ちゃん、降りるみたいよ〜!?」みたいなのもないしな。)
でも、長期の旅行から帰ってきて、空港から市内に向かうバスに乗った時に
ヤツラの騒音を聞くと「そうそう。俺、香港に帰ってきたんだわ。」と妙に安心する不思議。
どういう経緯でそんな姿に・・・?
車内は常に冷凍庫のようにキンキンに冷やされているから、自分のまわりの冷房調節は不可欠。
でもさ、
こんなんなってるの、何なの?しかも、結構な頻度で。逆にどうやったら壊せんのよ・・・?
(そして、ティッシュを詰めるという努力も涙ぐましいよな)
いいから一回立てや
あと、個人的に一番嫌いなのが、私が窓側に座ってて、下りなくちゃいけない時に
通路側に座る人が膝だけ横にして避けたつもりになってるっていうヤツ。
全然避けたことになってないから、マジで。
そりゃ、モデルの仕事でもしてるようなスキニーな人だったらわかるけど、見たら分かるやん。
俺、おっさんやし、決してスリムじゃないし。
しかも、たまに長ネギがはみ出しているような買い物袋とか持ってる時あるし。
それであれやろ、ちょっとでも俺の身体や長ネギがかすったりしようものなら、目くじら立てるやん?
無理ゲーやってば。
街市系香港人
外資系だったらいいんだけど、残念ながら街市系。
バスとか小巴とか乗ってたら、前の座席の方からいっぱい水が流れてきたりとかしてて
よく見たら街市系香港人の持つ赤い袋の中で新鮮な魚たちが暴れてたとか、ああいうヤツ。
ちなみに、液体だけだったら、その下流域の座席を避ければいいだけなんだけど、
たまに榴槤(ドリアン)とか、大樹菠蘿(ジャックフルーツ)みたいな
殺人ガス系の果物を買ってくるひとたちね。逃げ場ないから、自粛希望。
とかさ。
雨の日に普通に私の太ももに傘密着させてくる人とか、あげればキリがないよね。
でも、文章にしてみたことでちょっとスッキリ。
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