何も変わんなかったってことは無いんじゃないの?
「香港人って、自分の主張がないし、話しててもつまんない。お金の話しかしないし。」
ここ香港には、中国大陸から抜群に切れる頭脳と高学歴を引っ提げてやって来る本土人も
多くいるのだけど、幸か不幸か私もそういう人を数人友達に持っている。
で、そのうちの一人がポロッともらした本音がかなり辛口な香港人批評。
私の周りの本土人たちは敢えてそんなことを口に出すことはなく、至って大らかというか、
自然に振舞っているのが日常で、それに対して香港人が目くじらを立てている、というのが
よくあるパターンなのだけど、その日だけはちょっと虫の居所が悪かったのかもしれない。
しかし、この本土人による同胞の見立て、正直分からんでもないところはある。
私の持っていた香港人のイメージ
同じカッコ、髪型。黒縁メガネ。お喋りだけど、草食系的なライフスタイル。
何だか工場で大量生産されたかのように無味無臭な人間がここにはいっぱいいるし、
学生時代には何かスポーツを?とか聞いてみても、ほとんどが「勉強してたから、
家と学校を往復だったかなぁ。」というこれまた味気ない背景を持っている。
小さなことにはすぐ不満を爆発させるのだけど、肝心なことになると意外に我慢強くて、
オトナな処世術でやり過ごす。さらには政治もこなすしたたかさも持つ腹黒さ。
そういうちょっとズルい部分が自分の主張を持っていないような印象も時に与えるし、
何と言っても人間臭いところを見せないために、人として物足りなく思ってしまう。
若者の世代になってしまうと、それに加えて都会人ならではの無関心、無気力感までもが
漂ってくるから、MTRの中でただただゲームやスマホに夢中になる学生たちを見ていると
香港人ってちょっとつまんない。っていう言葉も、何となく理解できるような気になってくる。
ZIP!見てたら衝撃が走った
・・・というのが、2ヶ月前までの私の香港人の見方。
香港の若者には気概というものが感じられないし、このままみんな大人しく中国共産党の手中に
収まっていくのだろう。少なくとも私には香港の将来像はとても悲観的に見えていた。
しかし、9月末。当時東京出張中だった私が、寝ぼけまなこでZIP!を見ていたそのとき、
衝撃的な香港の姿がテレビには映った。これがあの平和ボケした香港かと目を疑う怒りの光景。
そしてもっとショッキングだったのは、それを実質的に先導していたのが学生だったということ。
これには本当に驚いた。私の知っている香港の若者といったら、とっても世渡り上手の
お利口さんの集まりだったはずなのに、あんな声高々に自分を主張しているなんて!
香港人っていうのが、誰かに支配されている間も心は決して屈しないという反骨精神の持ち主で、
「香港、狭いし忙しいから嫌い。」と公言しつつも、携帯、セブン-イレブン、MTR駅が
常に自分の身の周りにないと気が狂ってしまうという根っからの香港依存症な人たちでもある、
というのはなんとなく感じてたけど、こんな大勢の前で香港愛を叫ぶのは初めてみたから感動した。
自分の考えを持ってるけど言えないのと、ハナからもってないのでは大違いなのだ。
「ちゃんとこの人たちにも、愛するものや守るべきもの、そして自分の主張があったんだ。」
彼らの人間らしい熱い心が感じられたから、とっても安心したのを覚えている。
そして、それと同時に香港の将来に対して、何かできることがあるのかもしれないし、
このまま無抵抗のまま一国二制度が終わっていくのが急に惜しくもなってきたのを心の中に感じた。
大袈裟に言うならば、とってもパッシブだった私の香港の将来像にわずかばかりの
薄い光が差したような気がしたのを感じたということ。
成果がないってことは無いんじゃないの
今回の民主化デモ。
特に途中からはその意義と手法に多くの賛否両論が飛び交った。
そして、一番大事なデモの成果という部分に関しては、表立ってはこれといったものはない。
中国政府はおろか、香港政府にすらろくに取り合ってもらうことはできなかった。
しかし。少なくとも私の中では大きな変化が起こった。
私が香港人に抱いていたイメージ(特に若者たちね)を極めてポジティブに変えてくれたし、
今後の香港に関しても、このまま指を加えて中国に吸収されていく、という道の他にも
(例え可能性は少なくとも)選択肢はあるのかもしれないと考え直させてくれたこと。
日本からフラッとやってきてはそのまま住み着き、趣味でブログを書いている至って
普通のヤップンヤン。そんなちっぽけな人間のハートを動かしたなんて、取るに足らない
小さなことだろうけど、でもそれは決してゼロではない、と私は小さな声で叫んでおく。
私はデモに意味はあったという生き証人のうちの一人でもあるわけだから。
そして、こういうことの繰り返しなんじゃないのだろうかとも思う。デモって。
少しでも心が動いた人がいるなら、大成功なんだって私は言ってやりたい。
負傷者、逮捕者は出たものの、最後まで非暴力を貫いたのは本当に尊敬に値するし、
日本人がやっても、同じことが出来たかどうか。
(もちろん、次はもうちょっと市民が被害を受けない、合法的なやり方があればベター)
今回のデモ第一楽章も完全に終結したわけでなくて、未だに現場の中継を見るのは
心が痛いし、ツイッターなんかで見る賛否の議論も傍で読んでるのも辛い。
香港はみんな疲れちゃったと思う、今回の件で。だから、一旦休んで仕切り直し。
次はもっと多くの人の心を動かせるように。
あ。そうそう。
当たり前だけど、冒頭の言葉はもはや私の周りの本土人からは聞かれなくなった。
ヤツラは代わりにデモについてとやかく言うようになったけれど、
それは「主張が無くてつまんない。」なんて言われるよりはよっぽどいいんじゃない?
香港人の気迫を見せることが出来た、というだけでも私は彼らの前で何だか鼻高々なのだ。
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