香港で働かせていただくということ(前編)
広東語を習ったあと、私は運良く香港で働き口を見つけることが出来た。
だから、駐在員でもなければ、日系企業で働いているわけでもない。
そういう意味では、香港人との間にヒエラルキーは存在しないし、
だからこそ彼らと近い立場で苦楽をともにすることができていると思う。
それが楽しくてしょうがない時もあれば、逆も然りだ。
簡単にいえば、良くも悪くもよく驚かされる。
香港に限ったことではないし、私の多分に個人的な経験が
主になっているが、下記にいくつかあげておきたい。
1. なんでも出来る新卒さん
私も香港人を採用する面接は何度も行っているが、
まず驚くことは、一部の大手を覗いて新卒枠がほとんどないこと。
ひとたび採用をはじめれば、多くの経験者に混じって、
新卒さんたちも果敢に応募してくる。
他の経験者たちが今までの職歴やスキルを朗々と語るのに対して、
新卒は手持ちの引き出しが何も無い状態からのスタート。
それでも負けじとボランティア経験だの、学校でのプロジェクトだの、
小さいことをどんどん広げて、プレゼンテーションをしてくるのである。
質問にもほぼ「何でもできます、やります。」
内心、そりゃ何でも嘘でしょうよ、とは思うものの、
やっぱり物怖じしない強さと交渉力は魅力的だ。
新卒のときから、そういう試練をくぐり抜けてくるわけだから、
香港人の職場での強さは折り紙付きである。
日本みたいにニートになんてなってる暇なんてないのだ。
(いや、実際香港にもニートいるけどさ)
2. 自分磨きを怠らない
ここでは大学院卒なんて掃いて捨てるほどいる。
自分のスキルを磨くための投資には金を惜しまず、
常に何かを学ぼうと必死である。
だから、仕事が終わってから通える大学の夜間コースは大人気で、
仕事も特別に少し切り上げさせてもらって、
そそくさと学校へ向かう社員たちというのもよくある光景。
みなそれぞれが自分のスキルだけを頼りに
どんどんステップアップをする上昇志向社会。
自分磨きを行うことが重要な処世術のひとつなのである。
ただ、仕事がくそ忙しい時でも、時間になればキッパリと、
そして笑顔で大学へ向かうスタッフたちにはたまに殺意も覚える。
3. 始業時刻って言葉を知ってるかい?
夜はとことん強い香港人たちであるが、逆に朝は全然である。
遅刻に関してはもう日常茶飯事になることは覚悟したほうがいい。
当初、私はそのことについて、無知すぎた。
とある遅刻魔に「遅刻なんてしてないです」とシラを切られたため、
止む無くほとんど遅刻ばかりのタイムカードまで見せて話したのだが、
「ほら、してないじゃないですか」「・・・・!?」
二人の間の空間が一気にネジ曲がってしまったように感じた。
ここまで後ろめたさを感じずに遅刻を正当化されては、
人間というもの、何も言葉が出てこないものである。
言われたものができりゃ何でもいい、それが彼らの至高の目的である。
おおかた間違っちゃいないし、遅刻なんかでご立腹されて、
仕事のクオリティが下がるよりは容認する方がマシである。
私はこうして、よく言えば「郷に入っては郷に従え」、
いや、正確には「長いものには巻かれろ」な職場生活を過ごしている。
4. エアコンの番人がいる
15℃、風力「強」。
私が毎朝オフィスに到着する際にセットされているエアコン設定である。
朝が異常に早い、太っちょの香港人スタッフが、
彼用に特別チューニングをしてくれているのである。
みんながみんな、君のように脂肪という名のコートを
着ているわけではないし、仕事中にバリバリ食べる
オヤツの量を減らすことで対応できないものだろうか。
他の女の子たちもこれには困っているようで、
「まったく、寒すぎですよ〜」と同調してくれて、
少し調整してくれるのだが、それでも20℃までである。
その後、エアコンの設定パネルに私が近づこうものなら、
太っちょリーダーたちの氷のような視線が集中する。
どうも20℃あたりが彼らのどうしても譲れないラインらしい。
室内温度決定委員会に入れてもらえるのはいつの日であろうか。
5. 電話の切り方が恐ろしい
日本人だったら、お客さんとの電話が終わったら、
ゆっくりと相手が電話を切るのを待って、
あたかも「残心」が如く、そっと受話器をおきたいところ。
… ぶん投げるのである。
たまに収まるところに収まらず、机の上で豪快に踊ることもある。
電話の向こうではどんな轟音が響き渡っているのか想像もつかない。
そして、私の電話と受話器を結ぶコードは新品のように綺麗だというのに、
彼らのものは二度と元に戻らない爆発パーマ状態なのは何故か。
電話の出方だってそうだ。自信満々トーク全開で、
私なんかよりよっぽど偉そうな話し方してやがるのである。
私の不在時、うちのスタッフが代わりに電話対応してくれているが、
この間、お客と私が電話していて、トラブルが起こりそうになった時、
「あの、いつもの上司の方に変わってもらえますか?」
・・・・? いつからヤツが私の上司になったのか?
後編につづく。
2024年補足
日本に帰ってから時間が経って、あらためてこの記事を読むとなんだか微笑ましい。
香港人、というか海外は往々にしてそうだと思うのだけれど、
会社と個人は同じ立場だと考えているし、嫌ならやめればいいという堂々たる態度。
自分のスキルを常に磨き続け、社会の荒波をわたり歩く姿はなんとも頼もしい。
会社も会社でそういうもんだと割り切っている。
それに比べて日本で時々思うのは、明らかに経験者採用、シニアな方を採用しても
トレーニングはしっかりしてくれるんですよね?それが良い会社ってもんですよね?
というマインドが結構罷り通っちゃってるような気もする。
なんだかそれがすごく当たり前に守られた権利のような言い草なので
シニアを採用するメリット・・・ってなんだか一瞬手を止める自分がいるのである。
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