私のルーツ、ドラえもんの家。香港スローライフのすすめ

皆さん、大尾督というところに行ったことはあるだろうか?

郊外も郊外。大郊外である。

最寄りの駅まではバスで30分
コンビニだって、20分くらいバスに乗らないとないという、
いわゆる一般的な日本人が思う香港とは似ても似つかない場所だ。

年に数回、香港人はバーベキューをやりに大尾督を訪れるが、
そうでもなければまず寄り付かない、陸の孤島である。

いきなり落ちた落とし穴


何でいきなりこんな話をするかというと、実は私、ここに住んだことがある

私には海外で暮らしたい、そんな漠然とした憧れがあった。
だから、ひとまず語学留学ということで、中文大学の広東語学生として、
あり得ないくらい軽いフットワークでふらっと香港にやって来た

寮に入るでもなく、土地勘も全くなく、であったから、
家の手配は地元をよく知る香港人に頼めば問題なかろうと思っていた。

結果がこれだ。

渡されたアドレスを手にタクシーで家についた時には、
どこの中国本土に迷い込んだのかとさえ思った。周りに何もない。
どうやらこれが夢でも何でもないと思い始めたころ、
ザーザー降りの雨の中、私は文字通り絶望に打ちひしがれた。

ドラえもんの家

なんということだろう。

私はあのビルに囲まれた王家衛の世界で、エネルギッシュで
ヴィヴィッドな香港生活を送るんじゃなかったのか?
日本でだって、こんな田舎には住んだことがない。
これから始まる香港生活がまったく想像できなくなった。

とうとう頭に来て、家をアレンジしてくれた香港人に怒りの電話をした。

「日本人はみんな、ドラえもんののび太君の家みたいなのに
住んでると思ったから・・・。気に入らなかった?」

ドラえもんハウス・・・、どんな先入観持ってんだ。
怒りを通り越して、私はひとり欝気味になっていた。
周りに何もない。コオロギみたいなのが煩く鳴いているし、
アイスが食べたくなってもセブンもない。

隠居したじいさん、ばあさんが安らかな死を待つ場所にすら思えた。

陸の孤島での生活


確かにドラえもんハウスではある。
しかも、家賃は1フロア700sqftでHK$4,500の破格の価格
ただ、一人の王家衛に傾倒した若者にとっては地獄のような場所だった。

私はその頃、香港の食生活にも馴染めないという別の問題も抱えていた。
旅行レベルで来るなら、しこたま飲茶でも中華料理でも良いんだが、
さすがに毎日毎日脂っこいものを食べること
私の胃腸にとって想像以上の負担になっていたからである。

心身ともにボロボロになっていたころ、ついに大学生活が始まった。

サイクリング中の意外な出来事

この大尾督というのは大囲から吐露湾をぐるっと回って大埔までの
サイクリングコースの最終駅。おかげで自転車に乗るには最高の場所である。
その地の利を活かし、私は毎日大尾督から大学駅まで自転車で通った。

こんな健康的なこと、日本だってしたことない。
カンカン照りの太陽の下で、サイクリングを毎日楽しめるなんて贅沢だ。
それに、ある日の帰り道、私はこんな風景を見た。


なんて美しいところなんだろう。
香港でこんな風景を見られるなんて思ってもいなかった。

香港でのスローライフも捨てたもんじゃない

学生という身分だったからこその生活といってみればそれまでだが、
私は徐々に田舎暮らしを楽しみ始めた。
学校から帰ったら、釣りに行く。庭では野菜を育ててみたり。

そして極めつけは好きなときに好きなだけバーベキューである。
人を呼んでパーティーしたっていいし、一人本を読みながら、
炙り焼きを楽しんだっていいのだ。こんな贅沢ってなかなかない。

そして、そこに住む田舎の人達も私の生活を支えてくれた。

村の入口に一軒だけ簡単な料理を出すお店があるのだが、
そこの夫婦が食生活に悩む私のために、店のメニューにない、
「豉椒排骨炒烏冬」を私だけのためにいつも作ってくれた

焼きうどんみたいなもんなんだが、今私が香港にいられるのも、
この焼きうどんがあったからといってもマジで過言ではない。
それくらい私は弱り切っていたのだ。

綺麗な空気と風景、健康的なサイクリング、(頑張った広東語)、
焼きうどん、バーベキューパーティー。
ここだからこそ出来ることを思い切りエンジョイして、
私は徐々に元気を取り戻し、その場所が大好きになった。
私の香港のルーツとも言うべき場所となったのである。

ちなみに、お店の名前は邦利士多。林夫婦が営んでいる小さなお店。
私の香港での大恩人であり、今でもたまに訪れるのだが、
いつも変わらないくったくのない笑顔で迎えてくれる温かい場所だ。

林太

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お近くにお寄りの際は、ぜひ「豉椒排骨炒烏冬」を。
(裏メニューですが、日本仔から聞いたって言えば作ってくれるんじゃないかな)

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