宴の準備は嵐吹く前夜に – 香港夏の風物詩

ついにうちのプールにも水が張られた。
狭いベランダの家庭菜園ではミニトマトもなりはじめ、
ゴーヤなんて生い茂りすぎて、もう無双状態だ。

そう、香港はすでに夏、である。

旅行者にはとかく評判の悪い季節であるし、
私も香港に来た頃はバターのように溶けたようになっていたものだが、
慣れとは怖いもので、今ではサウナのような湿度もなんのその。

容赦無い夏の陽の下、プールで涼やかに泳いだり、
ハイキングにいったり、汗かきながら街を歩いたり。
個人的には大好きな季節だ。

そんな香港の夏だが、ある意味風物詩ともいえる
香港市民の隠れた人気イベントが存在しているのをご存知だろうか。

日本でもお馴染みのヤツラの通り道


なんだか見覚えのあるような図だと思うが、そう、台風である。
日本も呪われたようにヤツラの通り道に位置してしまっているが、
ここ香港も同じく、台風とは随分と馴染みが深い。

亜熱帯特有の強い風雨が容赦なく街を襲ってきては、
香港名物の看板たちが大暴れし始めるので、大変に恐ろしいものだ。
あの頼りなさ気に取り付けられた看板たちが頭上でグラグラである。

そんな危険な風物詩が年に何度もやってくる。

意外や意外、歓迎される夏の風物詩

ただ、ここでひとつ日本と大きく違うのは、
香港の場合、一定レベル以上の風雨が吹き荒れると、
めでたく学校や会社が休みになる
こと。

これは私にとって非常に驚きであったが、今になって冷静に考えてみれば、
日本の方がよっぽど異常なのかもと思わざるを得ない。
どんなに雨風が強かろうと、子供だって危険を顧みず、家を離れる。

雨にも負けず、風にも負けず、とはいうが、
今の子どもたちと昔のガキンチョでは鍛えられ方が違うから、
団塊世代が自分基準で考えてしまうと、いろいろと不都合も多かろう。

祭り前夜に街は湧き立つ

香港では風力の強さが公式に10段階で規定されており、
(1の次が3、その次がいきなり跳んで8、9、10と実際は5段階運用される)
シグナル8を超えると、会社も休みになるという仕組みになっている。

ちょっと余談だが、なんでまた3からぶっ飛ばしていきなり8に
なっちゃうかっていうと、下記bonbon堂様から引っ張って来た文献に非常に詳しい説明がある。

1917年に、香港初の風の状況についての数字による段階的な
警報システム(台風シグナル)が導入されました。
1~7の段階があり、そのうち2~5は強い風の方角をあらわしていました。

1931年、これらの数字は「1,5,6,7,8,9,10 」に変更され、
5~8の数字はそれぞれ強風の方角をあらわすようになりました
1956年、強風をあらわす「3」が、「待機(Stand by)」の
サインである「1」と強風の方角を表す
「5」以降の数字の間に導入されました。

1973年元旦より、市民の誤解を避けるためにこれまでの
5~8の数字に代わって「8 NW, 8 SW, 8 NE, 8 SE」が導入され、
現在の形となりました。

当初、このシグナルは主に船員(漁業・船舶などの関係者と思われ)
のためのものでしたが、だんだんと一般の市民生活のためにも
受け入れられてきました。

どうであろうか。想像以上にスッキリされたのではと思うが、いかがだろう。

・・・っと、話は戻して、

そんなわけであるから、台風が香港に近づいてきて、
シグナル3でも発令されようもんなら、街中の人たちが
それの動向に釘付けになり、「明日の休みは何しようか?」と
降って湧いた休日を前に熱い盛り上がりを見せるようになる。

そして、ついにシグナル8が発令されてしまえば、
それは市民にとってお祭りの始まりを意味し、窓の外の猛烈な風雨を横目に、
人々はそれぞれの宴をおもむろに楽しみはじめるのである。

人それぞれな祭りの祝い方

ワーカホリックな連中は「もともと出勤日なのだから」と
家の中から仕事に精を出しているようだが、それも少数派。
(日本人なら、こちらが多数派になりそうなものだが・・・。)

香港での多数派とはいうと、ここぞとばかりに商売っ気を見せる
酒樓に繰り出していっては日頃できない朝飲茶に興じる。
外は大雨、自分は朝から点心。この世の楽園である

これは割と普通に見られる光景で、飲茶行ける元気あるなら仕事行け、
と思われるかもしれないが、法律で決まっていることだから、
彼らは合法的に臨時休暇を満喫している罪なき民である。

私としてもどっちかというと、一緒になって飲茶している方だから、
今日ここでそれを弾劾することは自粛しておきたいのが本音だ。

宴の準備は嵐吹く前夜に始まる

厳密に言うと、会社が休みになるかどうかは朝の時点での判断による。
しかし、中にはどうにも見切り発射で他より一足先に
祭りを始めようとする早とちりな輩が毎回発生している。

仕事から帰ってきて、おもむろに台風情報チェック。
「明日は絶対休みだ」と勝手に思いこむなり、
親戚、友達中に電話をかけまくり、徹夜麻雀のメンツを揃える

まったくおめでたいヤツラで、人生の楽しみ方というものを
よーく知っている、いかにも香港人といったタイプである。

ただ、台風が直前でそれてしまうことも多く発生することも日常茶飯事。
そうなると、麻雀は即刻打ち切り、すぐさま出社しなければならない。
まさに天国から地獄であるが、そんな時にはこの似非勝ち組の方々は、
翌朝どえらい形相で出社してくるのが通例である。

学生時分ではないのだから、徹夜麻雀明けの仕事は体に堪えようが、
それなりのリスクを負いながら彼らも人生を楽しんでいるわけだ。
後先考えずにまずは楽しむ、香港人らしい潔さを感じる。

しかし、それも含めて、台風前後の市民の姿を見ると、
香港人らしさが随所に見られて、つくづく面白いイベントなのである。

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