香港なんて大嫌い

石硤尾

この街は本当に狭すぎると思う。

仕事中は当然のように高層ビルの中に押し込められ、会社のために酷使されるわけだし、
我々が家と呼ぶ空間だって、鳩小屋のように小さく仕切られたマンションの一室に過ぎない。
そのくせ、家賃は目が飛び出るくらいに高いし、お隣さんとも手が届きそうなほどに近いから
プライバシーも何もあったもんじゃない。
おおよそ自宅っていうのはもっと落ち着ける場所であって欲しいのだが、いかがなものか。

そもそも、うちのフロアにはインド系の家族が住む一室があるようなのだが、
いまいち愛想が良くなくって私はあんまり好きになれない。
母国の制度上ではいわゆるハイクラスの出自の人たちなのかしら、と下世話な想像をしちゃうくらいに
素っ気無く、私が欲する笑顔の半分にも満たない、冷たくシニカルな微笑みしか見せてくれない。

そして、どうでもいいことだがこの家からは3日に1回はカレーを作ってるらしき香りがしてきて、
それがまたあり得ないくらい美味そうで仕事帰りの私の胃を無駄に刺激してくるから頭に来る。
さらに一番下の女の子は、クリっとした大きく魅力的な瞳を持っている上に、他の家族と違って
随分と愛想がよく、エレベーターで気軽に話かけられるのでおじさんは大変気まずい。

その隣。
他の部屋の住人がとっくに寝静まっている真夜中だというのに、年中パーティー。
同じ人間かと疑ってしまうような声量を誇るガタイの良い欧州人のおじさん主催である。
ギターを引きながらの大合唱に、いったいどんだけよ?ってくらいの飲みっぷりだから、
当然私も含めてご近所さんたちは困惑気味。

だけど、次の朝にもなれば遅刻をすることもなく、ビシッとスーツを着こなして
いかにも出来る男という出で立ちで忙しく家を出ていき、
私にすら「今度、うちに飲みに来いよ。」とでも言わんばかりのナイスな態度で挨拶。
その清々しい笑顔を前に私の表情もついつい緩んでしまう。
くそっ、次騒いでやがったら、日本酒持って殴りこみにいくから覚悟しとけよな。

そして、うちのすぐ隣の世帯。

… 無音である。

それもそのはず。ラッキーなことに誰も住んでいないのである。
精確にいうならば、平日は、である。
おそらくこの部屋の住人は、平日は都心部の自宅で寝起きしているのだろうけれど
週末になると束の間のバカンスを楽しみに隣へ越してくるという夢のような生活を送っている。
まったく、この街には住む家にもあぶれる人が大勢いるっていうのに、
金持ちはこれだから… これだから… 羨ましい。

他にも、うちのベランダ向かいにソファを二つを並べて、暇さえあれば
そこに腰を下ろして仲睦まじく語りあう若いフランス人カップル。

玄関の赤や金色の飾りだけはやけに派手なんだけれど、家族構成すら不明で
ご近所との関わりを一切持たない、生きてるんだか死んでるんだか分からん大陸系中国人家庭。
(中薬を作る時だけ廊下中にものすごい臭いが充満するから、その際に生存確認可能。)

土日だっていうのに外にも出ずに、ダラダラと過ごす地元代表香港人宅からは
大音量のRTHKとそれにも負けないくらいの大声で話す声が聞かれる。
うちのフロアに香港人家庭はなんと一世帯だけだが、あんまりにも緊張感がなく
不敵な地元の余裕らしきものを漂わせているため、近所での認知度もそれはそれで高い。

 

… そういう共通項をひとつも持たないような人間たちが同じフロアで暮らしているのである。
まとまりもくそもへったくれもないのは想像に難くないだろうし、信じるものだってそれぞれ違う。
お互い付かず離れず、喧嘩もせずに、それはまるで猫と猫がすれ違う時のような
空気の中で付き合っているのが実情なんだけど、これだけ雑多な人種たちが
エレベーターや廊下を共有し、この街独特のそれなりの緩さでもって
まぁまぁ幸せな鳩小屋ライフを満喫しているのは自分のことながら何だか可笑しくも感じる。

こうやって考えると、うちの周りだけとってみたって、それも立派な国際都市の縮図。
日本じゃ考えられないくらいの身近な距離感で、いろんなストーリーが交錯するドキドキ。
… やっぱり、この街は狭すぎる。香港なんて大嫌いなのである。

香港ライフファイルがちょっと気になってしまった方は・・・
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コメント

    • chirorin
    • 2015年 6月 30日

    今日たまたま香港のこと調べていてこのサイトを見つけました。
    父が香港に住んでいたので、小さい時、私もマンションに滞在したことがあります。マンションの下の階の部屋がたまたま窓から覗けて、インド系の家族が住んでるなぁと思って見ていたら、綺麗なインドのお姉さんがカーテンをサッと引いてしまって、、カーストが高い方だったのかなとか、子供ながらに考えました。まぁ、知らないアジア人の女の子がソファーから身を乗り出して覗き込んできたら気持ち悪いですよね 笑。別の家の玄関に赤い風水グッズみたいな飾りがついていたり、玄関さっぱりしていてどこの家も綺麗でした。日本人みたいにごちゃごちゃもの置いてない…
    このサイト本当に懐かしいです。。香港に今度は私が住みたいなぁ、、。

    • HKLF
      • HKLF
      • 2015年 7月 01日

      chirorinさん、こんにちは。

      廊下を通り過ぎるだけで、いろんな国の風を感じることができる香港のマンション。
      どんな人たちが住んでいるのか、想像が尽きませんよね。
      chirorinさんの想い出のような出来事が毎日のように発生しています。

      お暇が出来たら、ぜひ香港にいらしてください。
      それまでこんなブログですが、ちょっとずつ香港の様子をお届けできればと思っています。

  1. 大嫌いなら日本から帰ればいいじゃないか。
    そもそも香港はおっしゃるとおり国際都市を代表してもいいくらい異文化交流のある場所なので、
    近所づきあいなんて言う日本独特の暮らしのスタイルなんてありません(村屋に住んでいるのであれば別ですけど)。
    香港に慣れるしかない。小さいのだからなれるのも簡単だと思うけど。
    香港人として、少しタイトルが残念だったので内容をきちんと読ませていただいた上で、コメントさせていただきました。

    • HKLF
      • HKLF
      • 2015年 12月 30日

      コメント、ありがとうございます。

      よく読まれた上でこういった感想を持たれるのであれば
      残念ながらこのサイトはもう読まないほうが良いと思います。
      私もよく文章がかけないもので、いろいろご不便おかけして申し訳ないです。

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