負のスパイラルを止めるべし

絶好の天気が続く香港。
しかもイースターホリデーで5連休中と来ているから街は笑顔で満ち溢れている。
そんな中、私の部屋では異世界のような音楽が鳴り響く。

マーラー。交響曲9番第4楽章。

この世のものとは思えぬ美しさと陰鬱さが同居する、崇高極まりない名曲。
私が死んだら葬式なんてどうでもいいから、これを一度だけでも流してくれたら成仏できる、
とずっと密かに思っている縁起でもない曲でもある。

「おそらく腫瘍。そして、悪性の可能性が高そうだわ。」

イースター初日の話。
名札にはインターンシップとある若い女医が私に告げる。

楽しみで楽しみで仕方なかったこの連休独特の空気がとたんに無味乾燥したものに変わる。
外出の予定も全てキャンセルして、連日自宅で集中力の続かない時間を過ごす。
もはや春とは言えない香港の暑さとどうにもならない現実に汗がしたたる。

そもそも、私は「死」というものの存在に人並み以上にナイーブである。
自分も含めて身内や友達が揃いも揃って健康で、そういう世界とあまり真剣に向き合ったことがない。
であるから、まだあどけなさが残るこの若い女医の口から想定外に出てきた厳しい警告により、
普段なるべく見ないようにしていた現実に無理やり対峙させられ、意気消沈した。

だというのに・・・、当の本人は何事もなかったかのように私の横でグーグーと昼寝を続ける。
そう、私の愛犬のお話である。

何だ、犬の話かと思うかもしれないが、これまで7年も付き添ってきてくれた私から見れば、
それはもう家族とも言える存在で、自分のこと以上に大事な存在でもある。

 旺角界隈に軒を連ねるペットストリート

うちには二匹の犬が暮らしている。
彼らの一般的な健康状態を簡単に言ってしまえば、一匹は良好。もう一匹はやや病弱。
上記の話は当然後者の方に発生している。
幼い頃から皮膚に問題があり、それが故により衛生状態の良い郊外へと私も引っ越した。
幸いそれ以降は大きく改善したが、やはり健康な方と比べるとやや病気がちである。

しかし、時折私は考える。
もしかしたらこれが香港のどこにでも見られる犬たちの一般的な姿なのかもしれない、と。

旺角は金魚街、それから勝利道。
ペットショップが立ち並ぶ代表的な場所であり、多くの香港人がそこを訪れては
ショーケースの中に佇む小動物たちの可愛らしい姿に魅了され、家へと連れ帰る。

うちの犬たちもそこにルーツを持つのではあるが、今思えばかなりリスキーな買い物を
したものである。少し冷静になって考えてみれば、この可愛らしい動物たちが
どんな背景を持って生まれてきたのかは容易に想像できるだろう。

負のスパイラルは止まらない

日本でだって問題になっている、パピーミル。
凄惨な情況から生み出される商品たち。
一見、華やかに見えるこの店の裏側には、命を命とも思わないプロバイダーと、
値段を厭わず無責任に商品を購入していくオーナーの悲しい需給関係が
毎日のように発生しているのは周知の事実であろう。

ここ香港でもそういった負のスパイラルは当然に発生している。
そもそもこの狭い香港であれだけ多くの犬や猫が供給されていること自体が不自然であるから、
おそらく日本よりもさらに悪質な管理・販売がなされている可能性が高い。

事実、街を歩いていても禁忌とされる組み合わせで繁殖が行われたことが明白な「危ない」
毛色を持って生まれてしまった子。そして、それをありがたがって自慢気に連れ歩くオーナー。
ちょっと獣医を覗いてみれば後を絶たない、先天的な問題を持ったペットたち。
獣医にしてみれば、皮膚に関する相談なんてもう医者が風邪を見るような感覚で、
薬なんかでどうにかなる代物ではないからウンザリなのではないだろうか。

そういう動物たちを日々創りだすことがもはや虐待と言えるレベルなのだが、
買い手が次々と現れてしまう限り、パピーミルが運転を停止することはないだろうし、
大衆に対してそういう教育をするというのも、社会から見れば優先度は低そうである。

お互いが幸せになることに対する責任

ペットが好きで、パートナーと言える存在と暮らしたいから。
単に寂しいから。
彼女が夜遊びしないか不安で、ペットを飼わせたいから。(香港はこれがとっても多い)

いろいろ理由はあると思う。

私がここで書き物をしたからって効果は限定的だし、分からない人には分からないこと
だとは思うのだけれど、一応月並みなことを言ってみると、マジで連れ帰る前によく考えてほしい。
連れ帰ったからには、自分が幸せになることだけじゃなくて、
彼らを幸せにすることも自分の責任ってことを忘れてほしくないと思うし。

旅行に簡単にいけなくなるのは当然。夜遅く帰ることだって絶対ダメである。
それから歳をとれば病気も多くなるし、(香港の場合、運が悪ければ若い頃から病院通い)
ペットの医療費なんて人間と比べ物になんないくらい高かったりもするのである。

なかなかシツケができないから。臭いから。病気がちだから。彼氏と別れて不要になったから。
そんなくだらない理由で手放されたり、ペットショップで売れ残った子たちがどうなるか、
誰だって知ってるはずなんだから、何があっても一生を添い遂げる覚悟で連れ帰ってあげる、
そういう覚悟が会ってはじめて家に迎えてやるべきであろう。

 本当に家族が必要な子を

そして、これは私も後悔していることなのだけれど、出来るならばなるべく
ペットショップで動物を買わない方向で考えていただけると私も多少救われる想いがする。

確かに純血種の方が見た目が良いことが多いのは認めるけれど、もしももう少し広い選択肢から
新しい家族を選ぶという余裕があるのならば、ぜひ「本当に家族が必要な子」を
連れ帰ってあげてほしいと思う。

SPCA Hong Kong(香港愛護動物協會)

例えば上記のように里親を募集している団体なんていくらでもあるはず。
ここから本当に必要とされて家に迎えられること。
残念だけれど、今の情況ではこれが最善の方法だと考えられる。

少なくとも、負のスパイラルに属するアクティビティではないから、
悪質なペット販売や不幸な動物たちの発生を助長するものではないと意味において
ペットショップで購入するよりよっぽどポジティブな行為だと私は思う。

… とちょっと重い話になってしまった。
前々からずっと思ってはいたのだけど、今回の件が良いキッカケだったので。
昨日、うちのワンコも検査のために簡単な手術をしたのだが、担当のインターン女医からは
「開いてみたら、意外に悪い腫瘍っぽく見えなかったわね。」
とのコメントも聞かれたのでいろいろ良い結果になってくれればいいのだけれど。

私とワンコのイースターを台無しにしてくれたショッキングな一件であるが、
同じような思いをする人や動物たちが一人でも減ってくれることを願って。

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コメント

    • ルシャベール
    • 2015年 4月 20日

    HKLFさん、こんばんは。

    私もお恥ずかしながら、つい最近までペットショップの裏事情、知りませんでした。本当にショッキングな話ですよね。しかも、欧米では、個体の販売は禁止されていて、アジアくらいなのですね、こういう商売がなされているのは。

    そして怖いのが、殆どの日本人が未だにその裏事情に無知です。私も、里親を探していた猫を一時期飼いましたが、お互いその方が幸せですよね。ペットショップ、早く全ての国で、違法になって欲しいものです。HKLF さん同様、私も強く願います。

    • HKLF
      • HKLF
      • 2015年 4月 21日

      ルシャベールさん、ありがとうございます。
      実は精密検査の結果、うちのワンコはガンでもなんでもないことが判明したのですが(マジ良かった!)、それにしても改めてペットについて考える良いきっかけになりました。お金を生み出す限り利用される運命に置かれている彼らですが、少しでも周りの理解が高まることで犠牲は確実に少なくなりますし、それが社会の成熟度というものかと。

      高校生の時にマーラーとは珍しい。私も、もともとクラシック好きだったのですが、高校生の夏、長崎の原爆慰霊か何かで小澤さんがマーラーの2番を振っていたのをみて、衝撃が走ったのを今でも覚えています。以降、5番、3番、6番、9番とどんどん深みに。笑

    • ルシャベール
    • 2015年 4月 20日

    あ、それからマーラーの曲、びっくりしました!私も高校生の時に、初めて聞いて陶酔したのを覚えています 笑 あんまり、共感してくれる人が私の周りに居なかったので、こんなところで出会えて驚いております。

    • ルシャベール
    • 2015年 4月 21日

    HKLFさん、ワンコちゃん、無事で良かったですね!聞いて安心しました。

    マーラー、私は十代にありがちですが、人生、進路に悩み苦しんでいる時に出会いました。今夜改めて鑑賞してみたいと思います。

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