とある週末の何でもないお話

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「そろそろ、帰らないと。」

日曜夜遅く、女は言った。

「しばらく泊まってけば?どうせ、俺一人だから。」

「ううん。朝が早いの。」

この女とは、先週末、会社が終わって、一人寂しく
香港島で飲んでいた時に出会った。

出会いを求めていた陰のある瞳

海外での一人住まい特有の寂しさで自宅に帰ることもせず、
街を彷徨っていた時だった。
女も一人街角で立ちん坊。肌の色も違ったし、香港人ではないことは
すぐに分かったが、そんなことは気にならない。

人懐こい顔で笑みをうかべる、ちょっと陰のある瞳、
セクシーなドレスにつつまれた小柄な体。
寂しさを消すことが出来るのなら、相手は誰でも良かったし、
外国人という同じ境遇の女は逆に都合が良かった。

結局、女とは週末を一緒に過ごした。

ちょっと緩い生活

やはり彼女も仕事のために香港に来ていたし、
お互い寂しさという心の闇があったから、話は弾んだし、
その週末はまるで観光気分で香港各地にも繰り出した。

夜の街で一人、男を待ち受ける、その事実だけでも
容易に想像できることだが、彼女は週末はほとんど家に帰らず、
外泊して過ごすというちょっと緩い生活を送っていた。

国には別に彼氏もいるというが、寂しさにはどうしても勝てないという。

仲間と謳歌する充実した時間

休日は、同じ国から来た仲間と集い、歌ったり踊ったりして過ごす。
中華料理も口に合わないから、料理をお互い作りあったりもする。
街角でそれをやるもんだから、旅行客やら地元の人もしばしば足をとめて、
それに魅入るらしいし、結構大きなグループのようだ。

仕事の疲れで土日を無駄にしてしまう、そんな廃れた休日を過ごす男には
そんな充実した時間を過ごす彼女は羨ましかった。
遊ぶ場所は、セントラル、コーズウェイベイ、アドミラルティ、
とにかく香港では歓楽街と言われる綺羅びやかな街が多い。

住まいはもちろん高級住宅

住まいだって、ホンハムの超高級マンションだという。
男が間違っても住めるような場所じゃなかった。
さすがに女ひとりで払えるような家賃ではないから、
友達かだれかとシェアしているような言い振りだった。

同居人には子供もいるみたいで、それを自分の子供のように
可愛がるとも話した。もともと彼女も英語圏の人じゃないが、
英語の先生になってあげたり、料理を作ってあげたりするとも。

「住んでるとこは凄いけど、私の部屋はほんとちっさいの。」
香港の荒んだ住宅事情は男も知っていたし、
自分の家を考えてみても、彼女の悩みは容易に共感できた。

但し、話の様子では男が思うよりももっとずっと狭いようだった。
同居人たちとの関係もあったりして、心地よく過ごしている風ではない。
それも休日は家に帰らない理由になっているようだ。

体を張ったハードワーク

クライアントサービスという仕事柄、ストレスも多い。
会社にいるというよりも、クラアントといつもべったり。
心優しいクランアントに当たれば、全く問題ないようだが、
そうでない場合は悲劇だという。

主に香港人がクライアントなのだが、本当に奴隷のように扱ってくる、と。
普段の笑顔が嘘のように、その時だけは悲しそうに話す。
ひどいものになると暴力だって使うそうだ。
男が思っていた香港人のイメージとは随分とかけ離れたものだ。

そういえば、昨晩彼女の背中に古傷があるのに気づいた。
前のクライアントによるものだという。
訴えないのか、と問い詰めたが、「立場上、角を立てなくない。」

香港に来て10年近く

まったく、男の俺でも海外暮らしは辛いと思うことが多いのに、
こんなハードな仕事をよくこんなか弱い女性がやるもんだ。
男は感心させられてしまうと同時に一種の哀れみを感じた。

もう香港に来て、10年近く。
男よりもよっぽどハードな生活を続けてきている。

「このままずっと香港に住むのか?」「それはないわ。」

それに彼女の永久居民のビザ申請は受け入れてもらえないため、
ずっと住み続けるのは無理、だという。

おかしい、男は思った。
外国人であっても、7年以上香港に住んでしまえば、
ほぼ無条件で永久ビザがとれるはずなのに。

夢のためなら

すぐに彼女は続けた。
「生まれ故郷に戻って、家族と一緒に大きな家を買うの。」
週末で見せた一番の笑みが出たのはこの時だ。
「そのためなら、どんな苦労でも喜んで受け入れるわ。」

週末をたまたま一緒に過ごしただけの軽い女、
だが、その軽い女の思いがけない強さに心を動かされるものがあったし、
よっぽど小さな苦労や悩みに翻弄されている小さな自分に男は気づいた。

もうこの女とも会うこともないだろう。
来週もまた別の宿を見つけ、たくましく生きていくのだ。
男は強くは引き留めなかった。

女は男の家から出ていき、ホンハムの仕事場に戻っていった。

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コメント

  1. HKLF

    期待させてすみませんが、フィクションです、笑。

    でも、このメイド女性というのは、香港社会とは切っても切り離せない関係で、
    香港人が毎日安心して生活できるのも彼女たちがいるからです。

    ただ、そんな彼女たちの生活環境も決して良いものとは言えず、
    政府からの法律的なサポートも十分とは言えません。

    物語のようにキレイ事でなく、ここはみなさんに知っておいてもらいたいと思いますし、
    旅行に来た時に「なんか道端にいっぱいフィリピン人がいる」とだけでなく、
    なんでそんな状況が起こるのか?ってところもぜひ考えていただければ幸いです。

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